ワイン好きはなぜグラスを回す?ワインと酸素の美味しい関係

ワインの酸化と聞くと、開栓したワインが劣化して飲めなくなってしまう場合など、どちらかというとネガティブなイメージが思い浮かんでしまう方が多いのでは?
しかし、ワインにとって酸素は敵ではありません。
実は、ワインをまろやかに美味しくしてくれるのもまた、酸素による酸化の働きなのです。
今回は、酸素がワインに与える様々な影響や、酸化による効果など、ワインと酸素の深い関係について調べてみました。
◇酸化は物質が酸素と結びつくこと
そもそも酸化とは、物質の分子に含まれる電子が酸素と結びついて奪われ、元の物質が化学的に別の物質に変化することを言います。
最も身近な酸化反応といえば、石油やガスの燃焼。炭素と酸素からなる石油やガスが、酸素と結びつくことで、二酸化炭素と水(水蒸気)に変化し、その際に出るエネルギーが光や熱を発します。
また、金属が錆びるのも酸化。水にぬれた鉄の包丁が錆びるのは、水分子に含まれる酸素によって鉄が水酸化鉄という物質に変化してしまうためです。
食品の場合は、例えば切ったリンゴをラップをしないで放置すると色が褐変したり、古い油が臭くなるように、酸化によって風味・色合・匂いが変質して好ましくない状態になることが多いです。
そのため近年では、加工食品のパッケージに脱酸素剤が同梱されていることもよくありますね。
◇ワインの熟成は、実は酸化の働き
このように、食品の場合、酸化は品質の劣化につながるマイナスイメージがありますが、ワインの場合、実は酸化によるプラス面もあります。
赤ワインを作る際はブドウから絞った果汁に果皮や果梗を漬け込みますが、この時に抽出されるのが、赤ワインの赤色の素となるアントシアニンや、渋みの素となるタンニンなどのポリフェノール類。ワインの製造工程で、わずかな酸素と接触させて、ポリフェノール類の酸化を進めることで、ワインの色合いや味わいに向上がもたらされるのです。
例えば、赤ワインの色を生むアントシアニンは不安定な物質で、ワインのpHの変動や亜硫酸の添加により色が薄くなってしまう場合があります。
ところが、適度な酸化条件に置かれると、アントシアニンがワイン中のタンニンやアセトアルデヒドといった成分と結びついたり、アントシアニン同士が結びついて高分子化するため、ワインの色が強まり安定化するのです。
アントシアニンと同様、ワインの渋みの素になっているタンニンも、酸素と化学反応を起こすことで徐々に高分子化していきます。
低分子では苦みを強く感じるタンニンですが、分子が大きくなるにつれて渋みを生むようになり、さらに高分子になるとまろやかな渋みへと変化していきます。
高級赤ワインは木樽で熟成させますが、これは木樽の細かい木目から程よくワインに酸素を供給するため。それによりタンニンの適度な重合が進み、しっかりとしたボディがありながらもまろやかな渋みのある高級赤ワインの味わいが生まれるのです。
また、ワインができあがった後でも、酸化は味わいに影響を及ぼします。
ワインを抜栓したものの、タンニンや酸味がトゲトゲしく、香りにも広がりが感じられない時に、ボディが平たく広がったガラスのカラフェ(これをデキャンタといいます)に移し替えることがあります。この作業をデキャンタージュと呼びます。
酸化熟成が不十分な若いワインをデキャンタに移し替える事で、空気中の酸素に触れさせて一気に酸化を促進し、それによってタンニンを和らげ華やかなか香りを引き出します。そのワインの持つポテンシャルを引き出すことができるのが、デキャンタージュによる酸化なのです。
ただし、デキャンタージュはどんなワインでも美味しくするわけではありません。
一般的に、デキャンタージュするのは、赤ワインのみ。白ワインやスパークリングワインはもともとポリフェノールの量が少ないため酸素に触れることによる利点がないのと、かえって爽やかでフレッシュな味わいが損なわれるためデキャンタージュは行いません。
十分に熟成してすでに飲み頃のワインの場合も、デキャンタージュは不要です。ピノノワールも、繊細な味わいが損なわれるおそれがあるため、デキャンタージュは行わない事がほとんどです。
また、ワインバーなどに行くと、ワイン愛好家がワイングラスの足を持ってクルクルとグラスを回しているのを見かけませんか?
これは「スワーリング」といい、ワインを空気中の酸素に触れさせて、酸化を進めることで香りを開かせているのです。
ワインをグラスに注いで、味わいが固かったり、香りの立ち方が今一つと思う時にはぜひ試してみてくださいね!
◇開栓したワイン、何日間なら大丈夫?
製造工程での適度な酸化はワインにプラスになるとはいえ、やはりボトルを開栓して空気中の大量の酸素に晒されると、ワインの品質は低下していってしまいます。
ここでは、開栓したワインの酸化のスピードについて見てみましょう。
酸化によってまず衰えてしまうのは、フレッシュでフルーティな香り。 特に、ソーヴィニヨン・ブランなどアロマティックなタイプの白ワインは、酸化によってすぐに平板な印象になってしまいます。
酸化によって果実味も損なわれ、酸味ばかりが目立つようになるため、特別な用具を使わずコルクを締め直して冷蔵庫で保管するのであれば、白ワインであれば開栓から3日程度、軽めのフルーティーな赤ワインなら4 〜5 日を目安に飲み切りましょう。
カベルネソーヴィニヨンのように色か濃くタンニンも豊かでパワフルな赤ワインの場合は、開栓した翌日のほうが複雑さやまろやかさが出て美味しくなることがあります。
このようなワインであれば、通常の冷蔵保管でも1週間は美味しく飲めるでしょう。
いずれにしても、あまりに長期間保存してしまうと、酸化によりアロマ・果実味や酸味が失われ、苦味と甘味だけが突出した劣化した味わいになっていきます。
ちなみに、温度が高いほど酸化は早く進むため、少しでも酸化を遅らせたいなら、冷蔵保管がベターです。
また、ワインの液面が空気に触れる面積が少ないほうが酸化は遅くなるため、いったん開栓したらボトルは寝かせず立てておくのが良いでしょう。
◇開けたワインを長く楽しみたい!酸化のスピードを遅らせるには?
開栓したワインが一日で飲みきれない場合、できるだけ長く良い状態で楽しみたいですよね。 ここでは、美味しさをできるだけ長く保つ方法をみてみましょう。 開栓したワインの品質を保ち美味しさを長持ちさせるには、いかに酸素を遮断して、酸化を遅らせるかがポイントになります。
・小さなボトルや、真空容器に移し替える
ワインの酸化を防ぐための最も確実な方法として、飲み残してしまった分を小さなボトルに移し替える方法があります。
ボトルは、小さめのペットボトルや、ドリンク剤のガラスボトルでOK。サイズが小さいほど、ボトル内の空気の量も少なくなるため、酸化のスピードを遅らせることができます。
コツは、ボトルの口いっぱいまでワインを満たして、空気をボトルに入れないようにすること。ボトルに空気を入れないようにすると、フレッシュな味わいが保たれる期間が長くなります。
もともと飲む量を決めてしまっている時は、開栓したらすぐに保管用ボトルに注ぎ分けて冷蔵庫にしまえば、酸素に触れる時間も最低限で済むのでさらに保存効果が高まりますよ。
また、最近ではレトルトパックのような形状のプラスチックバッグに注ぎ口のついた、液体用真空容器も市販されています。ボトルと違って注いでも空気が入らないため、酸素を遮断する効果は抜群。長期の保存も可能になります。
・瓶の中の空気を除く特殊な栓を利用する
酸化防止アイテムとしてワインショップでよく見かけるのが、ボトルから空気を吸いだすポンプと専用のゴムの栓。飲み残しのワインに専用栓をかぶせて、シュコシュコと空気を抜いて真空状態にすることで酸化を防ぎます。
ワインボトルにかぶせて空気を抜くだけなのでとても手軽で、価格も2,000~3,000円程度と安価で繰り返し使用できるため愛好者が多い方法です。
しかし、酸化は止められるものの、ポンプで空気を吸いだす時にワインにストレスをかけたり、香り成分も一緒に吸い出してしまうためワインの香りを弱めてしまうという声もあります。
香りが命の白ワインにはあまり適さない方法かもしれませんね。
・ガスを吹き込んで酸素を追い出す
長いストローが付いたボンベから、ワインボトルに窒素やアルゴンなどのガスを吹き込み、ボトルの中の空気を追い出すことで酸化を抑える方法。
一週間程度なら開けたてのフレッシュな印象が保たれます。
2019年にはアルゴンガスが日本で食品添加物として認可されたため、最近ではアルゴンの混合ガスが主流となっています。
アルゴンは不活性ガスのためワイン中の成分とも化学反応を起こさず、また、空気より重く、ボトルの中でワインの上に層を作って酸素を遮断してくれるため、効果的に酸化を防ぐと言われいます。グラスワインを提供するレストランでも利用されている方法です。
90回程度使用できるボンベが、3000円程度で販売されており、価格的にもリーズナブルなため、一度は試してみたい方法です。
高級ワインを飲み残した際にぜひ使用してみてはいかがでしょうか?
◇ノンアルコールワインも酸化する?
ノンアルコールワインはアルコールこそ含んでいないものの、もともとワインに含まれているポリフェノール類は保持しています。ですから、やはり開栓した後も長く美味しく楽しむためには、酸化に注意したいもの。
飲み切れない時は小さい瓶に移し替えるなどして、冷蔵庫で保存すれば1週間程度はフレッシュな果実味が楽しめますよ。
ただし、ノンアルコールのスパークリングワインの場合は、小瓶に移し替えたりポンプで空気を吸いだすと、泡の素となる二酸化炭素がワインから逃げてしまい泡立たなくなるためNG。
飲み切らなかった場合はスパークリング用のストッパーをして冷蔵庫に入れ、2日程度で飲み切るようにしましょう。
◇初夏にお薦めのノンアルコールワインは?

これからの暑い季節に飲みたくなるのは、プチプチとはじける泡が爽やかな
ノンアルコールのスパークリングワイン!
オススメはMELLOW STOREで販売中の、ノンアルコール・スパークリングワイン ”デュク・ドゥ・モンターニュ “ そして”シードルゼロ”リーズです。
ワインを醸造した後、真空状態で蒸留して、お酒本来の持つアロマを損なわないようアルコールを除きました。
いったん発酵のプロセスを経るため、ノンアルコールながらもお酒らしさに溢れるリアルな味わいを持っています。
また、アルコールを除去したためどうしても減ってしまう味わいのボリュームを、炭酸の刺激が補ってくれるため、本当のスパークリングワインやシードルに近い味わいが楽しめます。