おススメワイン小説『東京ワイン会ピープル 』
『東京ワイン会ピープル』は、ワイン好きの登場人物たちのワイン会での情事を中心に描かれたワイン小説です。
現実的な設定や構成ならも、エレガントで優しく、それでいて深く温かみのある浮遊感がプラスされて、絶妙なバランス感覚を味わうことができました。
ワインの知識もふんだんに綴られています。非情に濃い知識にも関わらず、テンポが良く分かりやすい文章になっています。
ヤングアダルトの小説のような分かりやすさに、大人のエスコートが加わり、まるでワインに真摯で紳士的なソムリエが物語に誘っているように感じました。
主人公のワイン素人の不動産会社のウェブ担当の紫野(女性)が、ワインの経験を重ねることに、人間として変わっていく模様もとても楽しいです。
また、紫野をワインにどっぶりと浸らせるきっかけを作った織田さんがどうなるかが対のテーマになっていて、読んでいて最後が気になります。その他の登場人物も魅力的です。
文体も非常に綺麗です。ここでは何個かご紹介してみたいと思います。
嚙んだら割れてしまうだろう繊細なグラスを伝うその液体は、質のいいルビーを溶かしたみたいにロマンチックな紅色。摩訶不思議な香りを呪文のように漂わせ、時に人の目を覚まさせて、時には子守歌となって体を包みこむ。口に含めばそこには、重厚で優美でたくさんの鍵をぶら下げながらすべて開錠されている、罠のように魅惑的な扉が待ち受けている。うっかり手を触れれば押し開ける前に自分が逆に引きずられ、投げ出されて迷宮に転がりこんでしまう。ワインワインワイン。
プラトニックという言い方が正しいかどうかはわからないのだけれど、楓さんと布袋さんの二人が話している様子を見ていると、そういう匂いがしないのだ。もっとなんというか、別のグラスに注がれた白ワインと赤ワインのような関係に思える。お互いを尊重しあい、そばに寄り添いながらも、決して混じり合わない。そんな距離感なのである。
本来は口の中で二つを混ぜ合わせて味わうものじゃない。 先にどっちかを吞むなり食べるなりし て、 その後にワインや料理を合わせるのがマリアージュの基本なんだ。 でもこのフォワグラとソーテルヌは、一緒に口に含んでも、 脂と酸味のきいた甘みが絶妙に混じり合って、 お互いを高めあってくれる
甘酸っぱい淫靡 香りと紅茶のような淑やかさが同居しているこのワインは、ミュシャの絵に通じる蠱惑に満ちている
収穫されたブドウは、洗ったりせずにそのまま発酵槽に入れられます。そうすると、畑賀に生息している野生の酵母の力で葡萄が発行してアルコールが生まれてお酒になる。もともとワインというのは、そうやって造られていたんです。
凄い。
本当に生クリームだ。
そして、いくつものベリーやスパイス、ハーブ…。
その絡み合う糸の複雑さは、やがて端正な織物のごとく理路整然とした形を成してゆく。
甘い余韻が、ぶれることなくいつまでも続き、心を虜にする。
なんだか素敵な文体で、何度も読みたくなりますよね。それもそのはず、『東京ワイン会ピープル』は、『漫画DEワイン!楽しい!ハマる!ワインに詳しくなれるオススメマンガ5選』でも紹介した、あの有名ワイン漫画『神の雫』の原作者である樹林伸さんが書き下ろした小説なのです。
小説ならではのワインの深みをぜひ、味わってみて下さい。